動物看護士おもちせんせいの ペットと健康でハッピーなくらし

動物看護士おもちせんせいです。動物病院をはじめ、様々な動物業界で仕事をしていました。その経験を活かし、職場でのエピソードやペットや動物との正しい暮らし方を紹介していきます。

動物病院体験記:「こんな犬もういらない」、愛犬家が言い放った衝撃の言葉

この体験は、私にとってとても衝撃的でした。愛犬家は、皆犬が好きだから飼っているのだという考えを、大きく覆された出来事でした。

 

ある日、一匹のマルチーズが病院に運ばれてきました。どうやら車にはねられてしまったようです。緊急で処置をほどこし、一命をとりとめることができました。そして、順調に回復し、退院するころにはすっかり元気になりました。

 

そして、退院の日。飼い主の男性が病院を訪れました。男性は40代後半のAさん。マルチーズのマル(仮名)を元気にお返しすることができて、私たちスタッフもほっとしていました。Aさんは言いました。

「後遺症などはないですか?」

それに対し医師は、

「あごの骨がずれています。しかし、これは生活をおくる際にはなんの不便もありませんよ」

 

マルは交通事故の際、顔を損傷してしまい顎の骨がずれたままになっていました。下の歯が突き出たような形で、見た目に少し違和感がありますが、生活をする上ではまったく問題はないとのことでした。

 

Aさんもさぞやほっとしただろうと思った矢先、とんでもない言葉が私たちに突き刺さりました。

 

安楽死できませんか?」

 

私たちスタッフは耳を疑いました。Aさんは続けざまに言いました。

「見た目がこれじゃ、可愛くないのでもううちでは飼いません。だから、安楽死を希望します」

と・・・。

 

もちろん医者は反対し、飼い主を説得させました。マルは血統書のついた立派な犬です。それを、少し見た目が変わっただけで安楽死なんて、どういう考えなのでしょうか。

 

「もともと、マルはもらった犬だし、飼いたくて飼ったわけじゃないんですよ。だから、見た目がこんなんなら、可愛くもないし、飼いたくないんですよね」

 

怒りを覚えましたがそれを通り越してあきれてしまうレベルのものでした。

 

「どうしても安楽死できないのであれば、おたくで引き取ってください。とにかくうちでは、安楽死しか考えていないので」

 

Aさんは「安楽死」の一点張りで、医師の話に耳を傾けることはありませんでした。安楽死というのは、末期がんなどで余命宣告をされた生き物が、その痛みや苦しみから解放するために行う最終手段です。それを元気な動物に行えるはずがありません。

 

動物病院のスタッフは、ほとんどがなにか自分でペットを飼っています。なので、そうやすやすと引き取ることはできません。里親を募集しましたが、何日たってもマルの里親は見つかりませんでした。マルは犬の入院病棟で生活していましたが、入院病棟は病気やケガなどの犬で空きがない状態になってしまいました。

 

検討した結果、獣医の一人がマルを引き取ることにしました。大型犬であれば輸血県として病院で働くこともできましたが、マルは小型犬。病院のスタッフにはなれません。マルの場合は、飼い主に捨てられてしまいましたが、このように奇跡的にスタッフに引き取られることができました。

 

しかし、ほとんどの場合は病院側で引き取るということはできません。本当にラッキーでもあり、可哀想なマルでもあります。なぜ、こんな人が犬を飼ったのか。いままでもどういう生活をおくってきたのか・・・。いまでも思い出すとむかむかします。

 

安易に生き物を飼うということは、優しさではありません。きちんと自分が飼える環境にあるのか、生き物を飼うことは金銭面も苦労するということを理解したうえで飼育して欲しいものです。